金融市場において、市場のボラティリティ(価格変動)は自然な現象であり、時にトレーダーに興奮や不安といったさまざまな感情をもたらします。トレーダーにとって、ボラティリティを理解することは、投資機会を最大限に活かし、リスクを適切に管理するために不可欠です。投資経験の豊富な方から初心者まで、市場が不安定な時期を乗り切るための知識は、投資の成功を左右すると言えるでしょう。
この記事では、市場のボラティリティの基礎知識、その発生要因、そしてボラティリティの高い状況下での効果的な取引戦略について解説します。
キーポイント
- 市場のボラティリティとは、金融商品の価格が変動する度合いを示し、リスクの高低を表します。
- 市場のボラティリティは、地政学的イベント、経済指標、企業の業績など、さまざまな要因によって変動します。
- トレーダーは、ベータ値やVIX指数などのツールを活用することで、リスクを管理しながら投資機会を捉え、ボラティリティに対応できます。
市場におけるボラティリティとは?
ボラティリティとは、一定期間における金融商品の価格変動の度合いを示すものです。具体的には、株式などの証券価格が短期間に大きく変動し、高値と安値の差が大きくなる状態を「ボラティリティが高い」と言います。逆に、価格変動が比較的小さく、安定している状態は「ボラティリティが低い」と言えます。一般的に、ボラティリティが高いと、リスクや不確実性が高まり、市場に不安が生じやすくなります。しかし、十分な情報と経験を持つ投資家にとっては、ボラティリティは必ずしもマイナス要因ではありません。市場のボラティリティにはリスクが高まるという側面があることは確かですが、適切にリスク管理を行うことで、投資機会が生まれる可能性もあります。
市場のボラティリティが高まる理由
金融市場のボラティリティは通常、地政学的な出来事、経済指標、業界およびセクターの業績、企業の業績などのファンダメンタル要因から生じます。
地政学的イベント
各国の政府は、国内の経済安定を維持するために重要な役割を担っています。そのため、予期せぬ事態や政策の変更は、金融市場に即座に影響を与える可能性があります。例えば、2019年に当時のアメリカ大統領ドナルド・トランプ氏が中国に対する貿易関税を発表した際、S&P 500指数(SPX)は急激に下落しました。
図1は、このような地政学的な出来事によるボラティリティの増大を示しています。SPXはわずか3週間で約14%下落しました。比較として、SPX市場が同じ水準まで回復するには25週間を要しました。
また、2025年3月現在、再びアメリカの大統領となったトランプ氏の関税を巡る発言や行動は、関連する銘柄や指数(インデックス)、通貨市場の変動を引き起こし、金融市場のボラティリティを高めています。
市場の変動に影響を与える地政学的な要因の別の例としては、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが挙げられます。パンデミックが世界中の国々を襲った際、世界的なロックダウンは経済に大きな混乱と不確実性をもたらしました。これにより、安全資産とされる貴金属の金はほぼ43%上昇し、史上初めて2,000ドルを超えて取引されました。
経済指標
一国の経済状況は、さまざまな経済指標によって把握できます。労働市場のデータ、インフレ率、製造業の動向、金利、GDPなどの要因は、発表された数値が市場の予想と大きく異なる場合に、市場の変動(ボラティリティ)を引き起こす可能性があります。
ヴァンテージのプロトレーダーツールに搭載されている経済カレンダーでは、各経済指標発表に伴う市場の変動予測を確認できます。ヴァンテージでは、EUR/USDなどのメジャー通貨ペアに対する過去のニュースイベントの影響を分析し、経済指標がテクニカル分析に与える影響をトレーダーに提供しています。
図3では、ドルインデックスが下降チャネルをテクニカル的にブレイクアウトし、1.75%上昇しています。このような急激な上昇は、特定の経済指標の結果である可能性が非常に高いです。このケースでは、FRB議長ジェローム・パウエルの講演が要因でした。彼のタカ派的な発言が、取引量の増加とボラティリティの上昇をもたらし、ドル高をさらに加速させたとされています。
業界とセクターの業績
2008年の米国の住宅産業の崩壊は、注目すべき一例です。極端な低金利と緩い融資基準が、米国の住宅バブルを煽る要因となりました。そして、それが本格的な景気後退につながり、株式市場は歴史的な暴落を経験しました[1]。
図4は、S&P500の月足チャートで、約50%の下落を示しています。この暴落により、過去5年間の強気相場の上昇分が、わずか10カ月で打ち消されました。
企業の業績
株式市場全体の変動性(ボラティリティ)は、個々の企業の株価にも影響を及ぼします。特に、好調な業績発表や革新的な新製品・サービスの発表は、株価の大きな変動要因となり得ます。一般的に、ポジティブなニュースや発表は投資家の楽観的な見方を促し、その企業の株式への需要増加と株価上昇につながりやすい傾向があります。
アップル社の例は、製品の発売予定が市場に与える影響を明確に示しています。2007年の初代iPhone発売以来、同社は2022年までに22種類のバージョンを発売しました。これらの発売のうち、16回は発売後30日以内にアップル社の株価上昇につながっています[2]。
図5は、iPhoneの発売月と発売後の市場の動向を示したものです。
ボラティリティの高い市場での取引方法
変動の激しい市場に対応をすることは難しいかもしれませんが、適切なアプローチを取ることで、トレーダーはチャンスを掴み、リスクを効果的に管理できます。FX、株式、またはCFD(差金決済取引)のいずれを取引する場合でも、市場のボラティリティに合わせて取引戦略を適応させることが重要です。
FX取引:高ボラティリティ時の戦略
FX市場は、経済指標の発表、地政学的イベント、中央銀行の政策など、さまざまな要因によって通貨の価値が頻繁に変動することで知られています。特にボラティリティ(価格変動の度合い)が高い時期には、流動性が高くスプレッド(売値と買値の差)が狭い傾向にあるEUR/USD(ユーロ/米ドル)やGBP/USD(ポンド/米ドル)などの通貨ペアに注目することが重要です。
市場の状況を把握するためには、平均トゥルーレンジ(ATR)などのボラティリティ指標を活用し、状況に応じて取引戦略を調整することが必要です。例えば、ボラティリティが高い場合、デイトレードのような短期取引戦略が有効となる可能性が高く、トレーダーは素早い価格変動を利用して利益を上げることができます。ただし、急激な価格変動は大きな損失につながるリスクもあるため、リスク管理のためにストップロス注文(損切り注文)を利用しましょう。ストップロス注文は、損失の拡大を防ぐ上で非常に有効です。
さらに、トレーダーは予期せぬ価格変動によるリスクを抑えるために、ボラティリティの高い時期にはレバレッジ(証拠金に対する取引額の倍率)を下げることも検討しましょう。
株式取引:高ボラティリティ時の戦略
株価が乱高下する相場での株式取引は、変動が激しく予測が難しいため、慎重な対応が求められます。投資家は、比較的安定していて価格変動の影響を受けにくい大型優良株への投資を検討することも検討してもいいかもしれません。また、市場の心理状況を把握するために、VIX(ボラティリティ・インデックス)などの主要な市場指標を注視することも重要です。
このような時期には、ポジションサイズの調整、ストップロス注文(損切り)の活用、ポートフォリオの分散といった戦略でリスクを軽減できます。短期的な市場の動きを利用して、デイトレードやスイングトレードで利益を狙うことも可能ですが、リスク管理をすることも重要です。
CFD取引:高ボラティリティ時の戦略
CFD取引は、原資産を実際に保有せずに価格変動を予測することで、値動きの激しい市場でも取引機会を得られる金融商品です。しかし、ボラティリティの高い状況下では、レバレッジは利益と損失の両方を増幅させる可能性があるため、CFDトレーダーは高いレバレッジの使用に注意する必要があります。平均トゥルーレンジ(ATR)などのボラティリティ指標は、最適なエントリーポイントとエグジットポイントを特定する上で有用なツールとなります。
CFD取引の主な利点の1つは、市場が上昇局面でも下降局面でも利益を狙える点です。しかし、この利点は、特にレバレッジをかけている場合には、急激な価格変動によって多大な損失を被る可能性があるため、大きなリスクを伴います。
これらのリスクに対応するために、取引を行う際には、ストップロス注文(損切り)の設定や過度なレバレッジの回避といった、適切なリスク管理戦略を実行し、不安定な市場環境において資金を守ることが重要です。
ボラティリティ取引戦略
価格の変動が激しい市場では、トレーダーは急激な価格変動に対応し、取引機会を捉えるために特定の戦略を用いることがあります。リスクを管理し、情報に基づいた取引判断を行うためには、ボラティリティを有効活用する方法を理解することが重要です。
ボラティリティブレイクアウト取引戦略
ボラティリティブレイクアウト取引戦略とは、市場のボラティリティ(価格変動幅)が低い状態から高い状態へ移行するタイミング、具体的には価格が一定の範囲内で推移した後に変動する局面を捉えるための戦略です。
通常、このような保ち合いの局面では、価格変動は狭い範囲に留まり、市場はブレイクアウト(価格の急激な変動)に備えている状態と言え、トレーダーは、支持線や抵抗線といった重要なテクニカル分析の指標を注意深く監視し、ブレイクアウトの兆候を捉えようとします。
価格がこれらの重要なラインを明確に超えて動いた場合、それはボラティリティが高まったサインとなり、トレーダーにとって取引に参加し、急速な価格変動から利益を得るチャンスとなります。
この戦略を効果的に実行するために、トレーダーは平均トゥルーレンジ(ATR)のようなボラティリティ指標とブレイクアウトのシグナルを組み合わせて使用し、ブレイクアウトの勢いを確認することが重要です。
ボラティリティ指標の活用
ボラティリティ指標は、市場の変動幅を測定し、潜在的な取引機会を見つけるのに役立ちます。平均変動幅(ATR)やボリンジャーバンドなどのツールを使用することで、トレーダーは市場が高ボラティリティ局面にあるのか、低ボラティリティ局面にあるのかを判断し、それに応じて取引戦略を調整できます。
これらの指標を理解することは、ベータやVIXなどの他のツールを補完し、トレーダーが市場の動きをより的確に予測する上で役立ちます。
市場のボラティリティを測定するツール
株式市場のボラティリティを測定する主要なツールは、ベータとVIXの2つです。どちらも市場のボラティリティを測定しますが、その用途は大きく異なります。
ベータとは?
ベータは、個々の株式のボラティリティを測定する指標で、各株式のベータは指数に対する相対的なリスクを示します。言い換えれば、特定の株式のベータは、市場全体(S&P500など)のベータと比較されます。1.0を超える正のベータは、市場全体と比較してボラティリティが高い株式を示唆し、1.0未満の負のベータは、市場全体と比較してボラティリティが低い株式を示唆します[3]。
図6は、低ベータ株であるシチズン・ホールディングの月足チャートを示しています。18年間にわたり、CIZNは赤い支持線と抵抗線で示されたレンジ内で推移しています。
図7は、高ベータ株であるイーストマン・コダックの月足チャートを示しています。KODKは、2020年8月に下降チャネルから力強いブレイクアウトを見せ、約3000%の上昇を記録しました。
VIXとは?
VIXは、ボラティリティ指数または恐怖指数とも呼ばれ、S&P500の短期的な価格変動に対する市場の期待を表します。過去のデータに基づくベータとは異なり、VIXはS&P500オプションから算出され、30日先のボラティリティ予測を生成します。投資家は通常、VIXを市場の恐怖、不確実性、疑念の指標として利用します[4]。
VIXの値は通常20から30の間で変動します。30を超える値は、市場の警戒感を示し、投資家がリスク回避のために資産を移動させる傾向があります。VIXの値が20を下回ると、市場は安定的であることを示唆します。
図8は、VIXの活用例を示しています。新型コロナウイルス感染症の流行時には、世界的な経済封鎖により金融市場に恐怖が蔓延しました。そのため、VIXの値は30の基準値を大幅に上回り、85まで上昇しました。安全資産とされる金(XAU/USD)は、投資家が資産を金に換えたため、合計32%の価値上昇を記録しました。
指標 | ベータ | VIX |
用途 | 主に短期から長期投資における分散に利用 | 主に株式市場における投資家の心理状態(恐怖や楽観)を測るために利用 |
数値 | 1.0未満:低ボラティリティ株1.0超:高ボラティリティ株 | 20未満:株式市場が楽観的 30超:株式市場が恐怖、不確実性、疑念に覆われている |
投資行動 | 長期投資家は1.0未満のベータ値を持つ株式を好む傾向があります。短期投資家は1.0超のベータ値を持つ株式を好む傾向があります。 | VIXが30を超えると、投資家は安全資産へ資金を移す傾向があります。VIXが20未満になると、投資家は安全資産から株式市場へ資金を移し戻す傾向があります。 |
まとめ:ボラティリティを利用した取引
この記事では、市場のボラティリティ(価格変動)について、その原因から具体的な取引戦略まで詳しく解説しました。ボラティリティは、リスクとチャンスの両面を持っており、ボラティリティの高い市場では、常に変化する状況に柔軟に対応し、リスクを管理しながらチャンスを掴むことが重要です。
ヴァンテージなら、最短3分でリアル口座を開設して、CFD取引をすぐに始められます。無料のデモ口座も利用可能であり、ボラティリティの高い市場状況でも、さまざまな取引戦略やテクニックを試すことができます。
また、入金ボーナスをはじめとしたさまざまなキャンペーンもご利用いただけます。
参照
- “The 2007–2008 Financial Crisis in Review – Investopedia”. https://www.investopedia.com/articles/economics/09/financial-crisis-review.asp. Accessed 20 Sept 2022.
- “Here’s How Apple’s Stock Has Done After Every iPhone Release – Fortune”. https://fortune.com/2016/09/09/apple-stock-iphone-launches/. Accessed 20 Sept 2022.
- “What Beta Means When Considering a Stock’s Risk – Investopedia”. https://www.investopedia.com/investing/beta-know-risk/. Accessed 20 Sept 2022.
- “CBOE Volatility Index (VIX): What Does It Measure in Investing? – Investopedia”. https://www.investopedia.com/terms/v/vix.asp. Accessed 20 Sept 2022.