世界の経済において、原油はガソリンやディーゼルなどの燃料から、プラスチックや医薬品、さらには肥料や農薬といった日用品の生産に至るまで、必要不可欠なコモディティです。そのため、原油市場は常に活発に取引されています。
原油取引で成功を収めるには、さまざまな種類の原油について理解を深めることが不可欠です。この知識は、トレーダーが自身のポートフォリオ戦略に最も適した銘柄を選定する上で役立ちます。
この記事では、世界の原油価格の主要な指標となっているブレント原油とWTI原油に焦点を当て、それぞれの類似点と相違点について詳しく解説します。
キーポイント
- 北海で採掘されるブレント原油は、世界の原油価格の指標として利用されています。一方、米国を産地とするWTI原油は、低硫黄であるのが特徴で、主に米国市場で取引されています。
- ブレントとWTIはどちらも、地政学的なイベントや需給バランスなどの要因によって価格が変動します。これらは、ETF(上場投資信託)、関連企業の株式、CFD(差金決済取引)などの金融商品を通じて取引できます。
- ブレント原油とWTI原油のどちらを取引するかは、トレーダーの目標とリスク許容度によって異なります。ブレント原油は世界情勢の影響を受けやすいのに対し、WTI原油は米国の市場状況に左右される傾向があります。
ブレント原油とは?
ブレント原油は、北海(特にシェトランド諸島とノルウェーの間)で採掘される主要な原油です[1]。ブレント、フォーティーズ、オーセベルグ、エコフィスクなど、複数の北海油田で採れる原油をブレンドしたもので、ガソリン、ディーゼル、ジェット燃料といった中間留分の生産に適しています。
世界の原油市場における主要な指標として、ヨーロッパ、アフリカ、中東における原油価格の設定に利用されており、インターコンチネンタル取引所(ICE)で取引されています。ブレント原油の価格は、国際的な原油取引の基準となっています。
ブレント原油の価格に影響を与える要因
ブレント原油の価格は、他の商品と同様に複数の要因で変動します。主な要因は以下の通りです。
- 地政学的な出来事: 産油地域の政治的な緊張は供給を不安定にし、価格を上昇させることがあります。逆に、政情が安定していると価格は下がる傾向にあります。
- 需給バランス: 供給過剰は価格を下落させ、需要の急増や供給の混乱(地政学的な問題や減産など)は価格を急騰させます。
- 為替変動: 為替レートの変動も価格に影響を与えます。
- 世界経済のパフォーマンス: 世界経済の状況は、原油需要に直接的な影響を与え、価格を左右します。
これらの要因の組み合わせによって、ブレント原油の価格は常に変動しています。
ブレント原油の取引方法
ブレント原油の価格変動を利用して投資や取引をしたい場合、いくつかの金融商品があります。リスクの許容度や戦略に合わせて自身に適した対象を選ぶことが重要です。
1. ETF(上場投資信託)
ETFは、ブレント原油の価格に連動する投資信託で、株式のように証券取引所で簡単に売買できます。実際の原油を扱う必要がなく、手軽に原油市場に投資できるのが特徴です。例えば、ユナイテッド・ステーツ・ブレント・オイル・ファンドLP(NYSEARCA: BNO)などがあります。
2. 株式
原油関連企業の株を買うことで、間接的にブレント原油に投資する方法もあります。例えば、エクソンモービル(NYSE: XOM)、シェブロン(NYSE: CVX)、トタルエナジーズ(NYSE: TTE)などの企業は、原油の探査、生産、精製などに関わっており、株価が原油価格と連動することがよくあります。ただし、企業の経営状況なども株価に影響を与える点には注意が必要です。
3. CFD(差金決済取引)
CFDは、実際のブレント原油を売買せずに、その価格の変動に投資する取引です。価格が上がると予想すれば「買い」、下がると予想すれば「売り」から始められます。柔軟な取引が可能ですが、リスクも伴うため、自身の取引戦略などに合うか慎重に検討しましょう。
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WTI原油とは?
WTI原油は、原油の一種で、軽質(密度が低い)で低硫黄(硫黄含有量が少ない)であることから「スイート」と呼ばれています。主にガソリンに精製されるこの原油は、テキサス州、ノースダコタ州、ルイジアナ州の油田で生産されており[2]、特にオクラホマ州クッシングで活発に取引されています。
WTI原油は、その質の高さから国際市場で高い評価を得ており、北海ブレント原油と並び、世界の原油価格を決定する際の重要な指標の一つとなっています。
WTI原油の価格変動要因
WTI原油の価格は、さまざまな要因によって変動します。主な要因は以下の通りです。
- 需給バランスの動向:世界的な原油の需要と供給のバランスが価格に大きく影響します。
- 米国の在庫状況:米国内の原油在庫量が増減することで、価格に直接的な影響が出ます。
- 地政学的な出来事:主要な産油国や消費国での政治的な不安定さや紛争は、供給不安を引き起こし、価格を変動させることがあります。
- 市場の投機:トレーダーによる将来の価格予測や取引活動も、価格に影響を与えます。
これらの要因に加えて、米国国内の状況もWTI価格に直接影響を与えます。具体的には、原油生産量、パイプラインの変更、戦略備蓄の動向などが挙げられます。
さらに、世界経済の状況(景気動向など)、OPEC(石油輸出国機構)の生産量に関する決定、そして新しいエネルギー技術の発展もWTI原油の価格に重要な役割を果たします。ハリケーンのような異常気象も、沖合での掘削作業や製油所の稼働に影響を与え、価格の変動を引き起こす可能性があります。
WTI原油を取引する方法
WTI原油の取引には、さまざまな金融商品を通じて参加できます。投資家やトレーダーは、それぞれの特性を理解し、自身のリスク許容度に合わせて市場に関与する方法を選ぶことになります。
1. ETF (上場投資信託)
WTI原油はETF(上場投資信託)を通じて取引できます。ETFはWTIの価格に連動するように設計されており、株式と同様に証券取引所で売買されるため、高い流動性と柔軟性があります。ETFを取引することで、原油価格に連動した資産への投資が可能になり、分散投資ポートフォリオにおける戦略的な資産として活用できます。
United States 12 Month Oil Fund LP (NYSEARCA: USL) などがWTI価格に連動するETFの例です。
2. 株式
WTI原油を間接的に取引するもう一つの方法は、原油業界で事業を展開する企業の株式を取引することです。特に、WTI関連製品の生産、精製、販売を行う企業が該当します。これらの企業の収益はWTIの価格に連動しており、企業の最終利益に影響を与えます。
トレーダーはこれらの企業の株式を取引することで、WTI原油の価格変動から利益を得られる可能性があります。ConocoPhillips (NYSE: COP)、Marathon Oil Corp (NYSE: MRO)、Pioneer Natural Resources Co (NYSE: PXD) などがその例です。
3. CFD (差金決済取引)
トレーダーはCFD(差金決済取引)を利用して、原資産を実際に保有することなくWTI原油の価格変動を取引することも可能です。CFD取引では、価格の上昇(買い)または下落(売り)を予測して取引を行い、予測が正しければ利益を得ることができます。
原油CFD取引に関するリスクとメリットについては、原油CFDについての記事をご参照ください。
ブレント原油とWTI原油:主な違い
コモディティ取引において、ブレント原油とWTI原油の違いを理解することは、トレーダーにとって不可欠です。これらは原油価格の重要な指標であり、特に両者のスポット価格の差を示す「ブレント・WTIスプレッド」は常に注視されています。
この2種類の原油には、他にもいくつか重要な違いがあります。
1. 採掘場所
- ブレント原油:主に北海で採掘され、「ブレント・ブレンド」「フォーティーズ・ブレンド」「オーセバーグ」「エコフィスク」「トロール原油(BFOET)」などの原油の総称です。
- WTI原油:米国テキサス州、ノースダコタ州、ルイジアナ州などの油田から採掘されます。
2. 輸送手段
- ブレント原油:通常、タンカーで海上輸送されるため、世界市場へのアクセスが容易で、その価格に影響を与えます。
- WTI原油:米国内のパイプラインで輸送されることが多く、輸送コストを抑えられる一方で、世界市場への供給は限られる場合があります。
3. API度(比重)
API度とは、原油の軽さを表す指標で、数値が高いほど軽い原油です。軽い原油は精製時にガソリンやディーゼルなど需要の高い製品を多く作れるため、一般的に価値が高いとされます。
- ブレント原油:API度38°で、WTI原油よりわずかに密度が高い(重い)です。
- WTI原油:API度39.6°で、ブレント原油よりわずかに軽いのが特徴です。
4. 硫黄含有量
硫黄含有量が低い原油はスイートと呼ばれ、精製しやすく不純物が少ないため、より好まれます。
- ブレント原油:硫黄含有量は0.40%で、WTI原油に比べて「スイート」ではありません。
- WTI原油:硫黄含有量は0.24%と低く、精製しやすい「スイート」な原油です。
5. 価格(2023年10月31日終値)
- ブレント原油:87.41ドル
- WTI原油:81.02ドル [4,5]
ブレント原油の価格が高いのは、国際市場での利用のしやすさと、世界的な指標としてのプレミアムが要因と考えられます。一方、WTI原油の価格は、米国内の需給やインフラの制約が影響します。
6. グローバルベンチマークとしての役割
- ブレント原油:複数の油田から供給され、国際的な流通が容易なため、原油価格の国際的なグローバルベンチマークとして広く認識されています。
- WTI原油:米国で採掘されるため、米国内の重要なベンチマークとして機能していますが、世界市場への影響力も徐々に高まっています。トレーダーはブレントとWTIのスプレッドを分析することで、世界の経済状況を把握し、市場トレンドを予測することがよくあります。
種類 | ブレント原油 | WTI原油 |
採掘場所 | 北海から採掘。ブレント・ブレンド、フォーティーズ・ブレンド、オーセバーグ、エコフィスク、トロール原油(BFOET)を含む | 米国内のテキサス州、ノースダコタ州、ルイジアナ州の油田から採掘 |
輸送手段 | 通常、海上をタンカーで輸送 | 通常、米国内のパイプラインネットワークを通じて流通 |
API度 | API度38°で、わずかに密度が高い | API度39.6°で、わずかに軽い |
硫黄含有量 | 硫黄含有量0.40%で、「スイート」度は低い | 硫黄含有量0.24%で、「スイート」度が高く、精製が容易 |
2023年10月31日時点の価格 | 87.41ドル | 81.02ドル |
グローバルベンチマーク | 原油価格の国際的なグローバルベンチマークと見なされる | 米国における重要なベンチマークとして機能し、世界市場への影響力も徐々に高まっている |
ブレント原油とWTI原油の取引:詳細な比較
このセクションでは、主要な原油指標であるブレント原油とWTI原油の取引について、その特性を詳しく比較します。
市場流動性
市場流動性とは、資産がどれだけ簡単に、かつ安定した透明性のある価格で売買できるかを示す指標です。
- ブレント原油は、その広範なグローバルな影響力により非常に高い市場流動性を誇り、世界中のトレーダーにとって主要な指標となっています。
- 一方、WTI原油も高い流動性を持っていますが、主に北米、特に米国市場での取引に焦点を当てており、その性質上、取引の焦点はより地域的になります。
価格決定要因
それぞれの原油価格は、異なる要因によって形成されます。
- ブレント原油の価格は、国際的な需給バランス、産油地域の地政学的緊張、そして世界経済の健全性の変化に大きく影響されます。
- 対照的に、WTI原油の価格は、米国内の需給バランス、在庫水準、および米国の経済指標に強く左右されます。例えば、米国内の輸送上の制約はWTI原油価格に大きな影響を与えることがありますが、ブレント原油価格にはほとんど影響しない場合があります。
取引戦略
ブレント原油とWTI原油は特性が異なるため、取引戦略もそれぞれ異なります。
- ブレント原油は、国際的な市場動向や世界経済の変化を考慮した戦略に適しています。これは、国際的な政策変更、経済制裁、あるいは米国外の原油需給に影響を与える為替レートの変動など、グローバルな状況の変化により敏感なためです。
- 対照的に、WTI原油は、米国の産業動向や在庫データに焦点を当てた戦略により適しています。トレーダーは、米国の経済見通し、インフラ開発、または米国のエネルギー政策の変更がWTIの価格変動につながる可能性に注目します。特に、毎週発表される米国エネルギー情報局(EIA)のレポートは、WTIの価格変動を予測する上で重要な指標となります。
契約の受け渡し
契約の受け渡しとは、先物契約の期限が到来した際に、現物の原油がどこで、どのように引き渡されるかを指します。
- ブレント原油先物の場合、受け渡しはブレント・デイト市場で行われます。これは、北海から産出される現物原油の特定の流れを指します。
- 対照的に、WTI原油先物契約は、米国における主要な原油ハブであるオクラホマ州クッシングで受け渡しが行われます。これらの受け渡し地点は、輸送コスト、サプライチェーンのロジスティクス、および原油の地域ごとの価格差に影響を与える可能性があるため、非常に重要です。
項目 | ブレント原油 | WTI原油 |
市場流動性 | 広範なグローバルリーチにより市場流動性が高く、国際トレーダーにとって主要なベンチマーク。 | 高い流動性を持つが、主に北米・米国市場で取引され、より地域的な焦点となる傾向。 |
価格決定要因 | 国際的な需給動向、地政学的緊張、世界経済の健全性の影響を受ける。 | 米国の需給バランス、在庫水準、米国経済指標の影響を受ける。国内輸送制約も影響大。 |
取引戦略 | 国際市場動向や世界経済の変化を考慮。政策、経済制裁、為替変動などグローバルな状況に敏感。 | 米国の産業動向、在庫データ、経済見通し、インフラ開発、エネルギー政策に焦点。週次のEIAレポートが鍵。 |
契約の受け渡し | 北海からの現物原油の流れを指すブレント・デイト市場で実施。 | 米国主要ハブであるオクラホマ州クッシングで実施。 |
ブレント原油 vs. WTI原油:あなたに合うのはどっち?
ブレント原油とWTI原油、どちらを取引するかは、自身の取引目標とリスク許容度によって決まります。それぞれの原油の特徴を理解し、自分に合った方を選びましょう。
取引目標で選ぶ
- グローバルな動きに注目したいならブレント原油:ブレント原油は、世界中の原油価格の基準(ベンチマーク)として広く使われています。世界の経済情勢や地政学的な出来事に影響されやすいため、国際的な価格変動から利益を得たい場合に適しています。
- 北米、特に米国市場に注目したいならWTI原油:WTI原油は、主に米国市場の需給や経済指標の影響を受けます。米国の市場動向に詳しく、その知識を活かして取引したいトレーダーに向いています。
リスク許容度で選ぶ
- 高めのリスクを受け入れられるならブレント原油:ブレント原油は、中東などの政情が不安定な地域を通過する輸送ルートの影響を受けやすく、地政学的なリスクによって価格が急に変動することがあります。予測できない動きに対応できる、リスク許容度の高いトレーダー向きです。
- より予測可能なリスクを好むならWTI原油:WTI原油も変動はしますが、内陸に位置しているため、国際的な政治的混乱からの影響を比較的受けにくい傾向があります。米国の経済状況に連動する側面が強く、より予測しやすいリスクを好む場合にWTIが適しているかもしれません。
まとめ:ブレント原油とWTI原油
原油取引において、ブレント原油とWTI原油は市場を代表する2つの指標であり、それぞれ異なる特徴と市場への影響力を持っています。
ブレント原油は、国際的な基準として世界の地政学的・経済的変動に敏感に反応します。そのため、広範な市場トレンドを追うトレーダーに適しています。一方、WTI原油は米国市場に特化しており、米国の産業動向や在庫データに影響を受けやすいです。米国市場に詳しいトレーダーにとって魅力的な選択肢となるでしょう。
どちらを選ぶかは、トレーダーの取引目標、リスク許容度、そして国際的な市場の変動を求めるのか、米国市場の相対的な安定性を好むのかによって変わります。
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参照
- “Brent Crude vs. West Texas Intermediate (WTI): The Differences – Investopedia”. https://www.investopedia.com/ask/answers/052615/what-difference-between-brent-crude-and-west-texas-intermediate.asp. Accessed 6 Nov 2023.
- “Brent Crude vs. West Texas Intermediate (WTI): The Differences – Investopedia”. https://www.investopedia.com/ask/answers/052615/what-difference-between-brent-crude-and-west-texas-intermediate.asp. Accessed 6 Nov 2023.
- “Energy Investing Basics: WTI vs. Brent Crude Oil – Charles Schwab”. https://www.schwab.com/learn/story/energy-investing-basics-wti-vs-brent-crude-oil. Accessed 6 Nov 2023.
- “OIL (BRENT) Price – Market Insider”. https://markets.businessinsider.com/commodities/oil-price?type=brent. Accessed 6 Nov 2023.
- “OIL (WTI) Price – Market Insider”. https://markets.businessinsider.com/commodities/oil-price?type=wti. Accessed 6 Nov 2023.