FXにおけるファンダメンタル分析：基礎と分析方法を分かりやすく解説

ファンダメンタル分析とは、トレーダーやアナリストが金融商品の真の価値を見極めるための強力な手法です。単にFXや取引商品のチャートの動きを追うだけでなく、その金融商品自体の背景にある資産、関連業界、そして経済全体の状況を深く掘り下げて調査します。

この記事では、これからFX取引を始めようと考えている方が、このファンダメンタル分析の基本をしっかりと習得できるよう、その基礎をわかりやすく解説します。

キーポイント

• FXにおけるファンダメンタル分析は、経済や地政学的な要因を評価することで、将来の通貨価格を予測する手法です。具体的には、ある国のGDP、貿易収支、失業率といった経済データを分析し、その通貨の健全性と潜在的な価値を測ります。
• この分析は、市場価格が資産本来の価値を反映するまで待つ長期トレーダーに特に好まれます。 主要な地政学的な出来事が経済データに影響を与え、それが市場心理を左右するという「トップダウン」のアプローチが特徴です。
• ファンダメンタル分析では、GDP、消費者物価指数（CPI）、非農業部門雇用者数などの経済指標の発表が重要な要素となります。これらの指標は、市場のセンチメントが悲観的であろうと楽観的であろうと、「安全資産」への投資行動や、より積極的な投資行動に影響を与える可能性があります。

ファンダメンタル分析とは？

ファンダメンタル分析とは、資産の価値を左右する国全体の経済や社会の状況を分析し、将来の価格を予測する方法です。チャートの動きだけを見るテクニカル分析とは異なり、ファンダメンタル分析では、例えば以下のようなさまざまなデータを詳しく調べます。

• GDP（国内総生産）: 国の経済活動の規模を示す指標です。
• 国際貿易収支: 国がどれだけ輸出入を行っているかを示す指標です。
• 失業率: 国の雇用状況を示す指標です。

これらの情報を総合的に見て、その通貨が今後上がるか下がるかを判断するのがFX取引におけるファンダメンタル分析です。

ファンダメンタル分析とテクニカル分析の違い

FX取引におけるファンダメンタル分析とテクニカル分析は、為替レートの将来の動きを予測するための主要な2つの分析手法です。それぞれの違いは以下の通りです。

ファンダメンタル分析

• 分析対象: 各国の経済状況、金融政策（金利の上げ下げなど）、経済指標（GDP、消費者物価指数、雇用統計など）、政治情勢、要人発言、自然災害といった、市場に影響を与える基礎的な要因を分析します。
• 考え方: 通貨の本質的な価値や国の経済力を判断し、その国の通貨が買われるか売られるかを予測します。経済が良い方向に進めば通貨は強くなり、悪い方向に進めば弱くなると考えます。
• 特徴:
  • 主に中長期的な相場の方向性を予測するのに適しています。
  • 経済や金融に関する幅広い知識が求められます。
  • 突発的なニュースやイベントによって市場が大きく動くことがあります。

テクニカル分析

• 分析対象: 過去の為替レートの動き（チャート）や、出来高などの統計データを分析します。
• 考え方: 過去の値動きのパターンやトレンドから将来の値動きを予測します。具体的な指標（移動平均線、RSI、MACDなど）を用いて、買われすぎ・売られすぎ、トレンドの転換点などを判断します。
• 特徴:
  • 主に短期的な売買のタイミングを判断するのに適しています。
  • チャートの読み方やテクニカル指標の使い方を学ぶことで、比較的初心者でも始めやすいとされます。

特徴	ファンダメンタル分析	テクニカル分析
分析対象	各国の経済指標、金融政策、政治情勢、要人発言など	過去の為替レートの動き（チャート）や出来高
考え方	通貨の本質的な価値や国の経済力を判断	過去の値動きのパターンやトレンドから将来を予測
予測期間	主に中長期の相場の方向性	主に短期の売買タイミング
必要な知識	経済学、金融、国際情勢など幅広い知識	チャートの読み方、テクニカル指標の使い方
メリット	相場の大きなトレンドを捉えやすい	突発的なニュースに左右されにくい、参入しやすい
デメリット	突発的なニュースで予想が覆されることがある	過去のデータに基づくため、万能ではない
例	金利発表、GDP成長率、失業率	移動平均線、RSI、MACD、ローソク足のパターン

ファンダメンタル分析の方法：主な指標

ファンダメンタル分析は、長期的な視点を持つトレーダーが主に用いる分析手法です。この手法を用いるトレーダーは、資産の本来の価値が市場価格に正しく反映されるまで、そのポジションを長く保持します。

ファンダメンタル分析は、トップダウンアプローチで考えると理解しやすくなります。これは、まず大きな視点から全体を捉え、そこから詳細へと掘り下げていく考え方です。具体的には、重要な地政学的イベントが、企業の業績や株価に影響を与える経済データに作用し、それが最終的に市場全体の心理（センチメント）に影響を及ぼすという流れです。

以下の図は、このトップダウンアプローチを示しています。

中央銀行の発表

中央銀行の発表は、市場の期待を形作り、経済政策に大きな影響を与えるため、ファンダメンタル分析において非常に重要です。トレーダーはこれらの発表を注意深く見守り、各国の経済の優先事項や今後の金融戦略についてのヒントを得ています。

金利決定や金融政策の変更に関する発表は、金融市場に即座に、そして大きく影響する可能性があります。例えば、中央銀行が利上げを決定した場合、それは通常、インフレを抑制し、通貨を安定させようとする試みを示唆しており、その国の通貨の価値を高めることがあります。反対に、利下げは経済成長を刺激するための取り組みであり、株式への投資を増やす一方で、通貨を弱める可能性があります。

インフレ

インフレもまた重要な経済指標であり、商品やサービスの一般的な価格水準が上昇する割合、ひいては購買力がどのように低下しているかを反映しています。中央銀行とインフレは密接に関連しており、インフレ報告は中央銀行の金融政策決定に影響を与えます。

インフレ率が高すぎる場合、中央銀行は経済を冷やすために金利を引き上げる可能性があります。逆に、インフレ率が低い場合は、金利を引き下げることで消費と投資を刺激するのに役立ちます。

経済指標

経済指標とは、ある国の経済状態や財政の健全性を数値で示すものです。

ファンダメンタル分析では、経済指標が非常に重要視されます。なぜなら、これらの数値が通貨の価値を左右し、トレーダーが注目する通貨ペアの価値に影響を与えるからです。主要な経済指標のほとんどは、毎月、経済カレンダーで発表日が公表されています。

以下は、2020年のコロナ禍が米国経済に与えた影響の具体例です。2020年初頭にパンデミックが始まると、米国を含む多くの国がロックダウンを実施しました。その結果、失業率は大恐慌以来の水準にまで急増しました。失業率が高い状態では、人手不足により商品の生産コストも上昇します。パンデミック中のインフレ進行は、生産能力の不足による商品やサービスの価格上昇が原因と考えられます^[2]。

経済指標	影響
労働市場	失業率が14%に達した。[2]
インフレ	消費者物価指数が2%から9.1%に上昇した。 [3]

ファンダメンタル分析で市場心理に大きな影響を与える主要な経済指標には、以下のようなものがあります。

• 国内総生産（GDP）
• 消費者物価指数（CPI）
• 政策金利発表
• 消費者信頼感指数
• 小売売上高
• 非農業部門雇用者数（Non-Farm Payroll）
• 新築住宅販売件数

これらの経済指標は通常、毎月発表されます。例えば、非農業部門雇用者数（NFP）は毎月第一金曜日に発表されます。

地政学的要因

国際関係や政治情勢の変化は、地政学的な出来事を引き起こすことがあります。これらの出来事は、特定の国の通貨価値に大きな影響を与え、その影響は長期にわたり、経済のさまざまな分野に波及する可能性があります。

例えば、米中貿易戦争は、地政学的な出来事が市場にどのような影響を与えるかを示す好例です。中国の世界貿易機関（WTO）への急速な加盟後、2019年には米国が対中貿易で3,456億ドルの赤字を抱える事態となりました。これに対し、両国は互いの輸入品に追加関税を課しました。特に米国では、中国からの輸入品に高額な輸入税が課せられたため、国内経済に深刻な財政的影響が生じました^[1]。

ファンダメンタル分析と市場心理

地政学が経済データに与える影響を理解することは重要ですが、さらに重要なのは、そのデータをFX取引にどう活用するかです。ここでは、市場心理が重要な要素となります。

例えば、新型コロナウイルスが世界的に広まり、経済がロックダウンされ、感染者数が急増したパンデミック時の米国を考えてみましょう。この時期の金融市場全体を支配していたのは「恐怖」という心理でした。

市場が「恐怖」に包まれると、投資家は日本円、スイスフラン、あるいは金や銀といった安全資産に資金を移動する傾向があります。反対に、市場を支配する心理が「楽観」である場合、投資家は資産を安全に守る必要がなく、代わりに株式市場などに投資する可能性が高まります。

FX取引におけるファンダメンタル分析の活用事例

FX取引におけるファンダメンタル分析は、経済指標や政治情勢を深く読み解き、将来の通貨の動きを予測するために不可欠です。具体的な活用例を2つご紹介します。

欧州債務危機におけるユーロ
欧州債務危機が深刻化した際、アナリストはファンダメンタル分析を用いてユーロの動向を予測しました。具体的には、危機の影響を受けた各国のGDP成長率、債務水準、緊縮財政措置といった主要な経済指標を詳細に調査しました。これらのデータは、ユーロが他の主要通貨に対して価値が下がる（切り下げられる）可能性をトレーダーに伝え、変動の激しい相場での取引判断に役立ちました。

ブレグジットにおける英ポンド
英国のEU離脱（ブレグジット）決定が英ポンドに与えた影響も、ファンダメンタル分析の良い例です。アナリストは、政治情勢、有権者の感情、経済予測などを綿密に分析し、これらの要素が通貨の安定性や国際貿易関係にどう影響するかを予測しました。

さらに、アナリストは欧州市場の反応や、その後のイングランド銀行の金融政策にも注目しました。これらは、短期的な相場の変動（ボラティリティ）や長期的な経済の調整を判断する上で非常に重要でした。このファンダメンタル分析によって、トレーダーはリスクとチャンスの両方を評価し、この大きな政治的変化の時期に、バランスの取れた通貨取引戦略を立てることができました。

まとめ：ファンダメンタル分析の基礎と分析方法

この記事では、FXにおけるファンダメンタル分析の基本とその活用方法について解説しました。

ファンダメンタル分析は、単にチャートの動きを追うのではなく、経済指標、中央銀行の発表、地政学的要因といった多岐にわたるデータを深く掘り下げて分析することで、金融商品の真の価値を見極める分析方法です。これにより、将来の通貨価格の動向を予測し、より根拠に基づいた取引判断を下すことができます。

特に、経済状況が不安定な時期や、主要な経済指標の発表時には、市場心理が大きく変動します。

長期的な視点を持つトレーダーにとって、ファンダメンタル分析は非常に有効なツールです。経済や政治の大きな流れを理解することで、市場価格が資産本来の価値を反映するまでポジションを保持し、大きな利益を狙うことが可能になります。

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参照